ヨーロッパ横断紀行

ランナーの巡礼歩き〜クラクフからジブラルタルまで6700km〜  太田 宏

【その1 プロローグ】

 

これは私、太田宏の70歳から72歳の足掛け3年に及ぶ巡礼の物語である。ポーランド・クラクフから始まってスペイン最南端タリフ及び英領ジブラルタルまでの行程6700kmに及ぶ旅について準備段階から旅の実行までを、その1(ポーランドからパリまで)、その2(パリからジブラルタルまで)の2つに大きく分け詳細に記述している。日毎に現れる各市町村を、場所ごとに区切って記述している。時間軸で写真やスケッチを並べた。

 

プロローグ・・旅の経路と日程、費用

大学で教鞭を取っていた時代。夏休みを利用して小さな巡礼の旅をスタートしたのが2004年。この年は2週間をかけてSahagun(サアグン)からSC(サンティアゴ・デ・コンポステラ)まで。続いて2010年の夏、前期末の試験から後期の始業式までの50日間を利用してフランス・ルピュイの道の途中にあるMoissac(モアサック)からスペインの西海岸にあるFinisstera(フィニステラ)まで、201278月には退職を機に家族と南フランスで開催された音楽祭を楽しんだ後、Le Puy(ル・ピュイ)からMoissac(モアサック)を巡った。この3回の旅はル・ピュイの道、フランス人の道、フニステラの道で、合計2000kmくらい。一本道として繋がった。巡礼の道は下図にあるように他にもヨーロッパやロシア各地からSCに向けてたくさんの道が存在する。

 

 

 

 

 

さて、2015年になりまたぞろ巡礼に旅立とうという気分が昂じてきたのだ。その年は5年に一度のショパンピアノ国際コンクールの年で、ワルシャワのコンサートホールがいつもの会場である。

ジョルジュサンドをして、ポーランドのポーランドと言わしめたショパンピアノ協奏曲1番。

その1番と2番のいずれかが本番審査で演奏される。この地をぜひ訪れたい。ポーランドの巡礼ルートにある古都(昔のポーランド王国の首都)のクラクフを起点として、巡礼の旅をスタートできないかと。巡礼の地図でポーランド国内にある中継地点はワルシャワやグダンスクなどである。これらは放射線状に伸びてパリに向かう。

クラクフから時計回りで旅し、まずは負の世界遺産「アウシュビッツ」を訪れる。続いてポーランドの巡礼聖地黒いマリア像を祀るヤスナ・グラ大聖堂があるチェンストホヴァを巡る。そこからウッチにはいり、ワルシャワを目指す。途中にあるショパンの生地・ジェラゾヴァ・ヴォラを見学する。ワルシャワではショパン博物館やショパンの心臓が眠る聖十字架教会の柱を訪れる。ショパンピアノ国際コンクールの最終審査が行われるコンサートホールも見てみたい。続いてビスワ川沿いにトルンまで歩き、バルト海へ出る。3つ子の都市と言われる グダンスク、ソポ、グディニアを回る。ルート上には岩塩やそれにまつわる保養地があるのでできるだけ訪れるようにする。クラクフ近くの ヴィエリチカ岩塩鉱、チェホチネク保養地やコウォブジェグ(バルト海沿岸)保養地である。以上のような概略でポーランドには2500kmの旅程の内1000kmを充てる。

ドイツに入ってからはハンブルグまではバルト海沿いに進み、ケルンからベルギーを抜けてパリに入る経路として2500km同じ場所に何泊かすることと、シェンゲン条約の90日という制約から1日の行程を32kmとして80日を歩くとする勘定で消化できると考えた。

 

第2段は、パリからブルターニュ経由で大西洋側を回ってジブラルタルに至る4200km。計6700km後半の旅は全部歩くと3ヶ月では間に合わないので2割くらいを鉄道やバスで移動を行った。

合計の6ヶ月は凡そ毎日32km-35kmで歩く勘定である。

 

計画の遂行にあたり大蔵大臣であるカミさんに三つ指をついて懇願。全行程の試算は240万円。お小遣いを毎月2万円削減して10年間でちょうど240万円。2回の旅のうち最初だけにしたらとカミさんが言う。まず第1回目を成功させないことには2度目はない。その1としての旅を5月から8月までの3ヶ月とし、道の特定などの作業に半年を掛けた。2014年秋口から準備をし始めたという次第である。

長い区間に亙って歩くため荷物が気にかかった。テント生活をメインにコンロで火を起こすという生活のために相当のものを持っていくという計画である。このために当初台車を曳くという案を立案した。

 

1.旅の準備 

地図

経路の特定と地図作成、半年前に概略を決定。詳細図作成は直前まで編集しタブレットに画像として保存。旅の準備Google Earthの定規の機能を使ってルートと距離を計測。GoogleMapのマイプレイス機能(1ヶ月の期限あり・・直前に用意する)

ポーランド1000kmドイツ・ベルギー1200kmフランス・320kmMy Map(詳細地図)1000枚を用意


 

用意した地図は下図ようなMyMapが1000枚。

ある1日の全体Map

詳細Map 3.5km分の行程

テントの場合は▲で示す。

Google Earthの航空写真も利用 森の状態などが把握できる。

 

 

 

旅装

大都市間の距離に応じて旅装束が変わってくる・・ベルギー・フランスのナミュール・ランス間177kmの5泊が最大の難関。リュックの大きさなど。
当初・・炊飯道具+旅道具一般
計画変更・・旅道具一般

旅道具

マット、タブレット、指差し会話帳、バッテリー、雨具、ナイフ、ヘッドライト、街歩き用一式、襟のある服。

持っていくべきだったもの・・スコップ(テントの場所を均す、小石を取り除く)、盗難防止用チェーン(これは旅の「その2」で大問題に!)、予備のタオル


 

 

タブレットの設定、画像(ギャラリー)、Simカード

言語(ポーランド語、ドイツ語、ベルギー語、フランス語、スペイン語、イタリア語が入力可能なように設定)、作成した地図(Jpegで地域ごとにフォルダを作成)及び、Simカード(国ごとに用意・・現地)、翻訳機能、各種検索、メール、Line、Facebook、メッセンジャー

 

事前の情報収集

ポーランド政府観光局(新宿区)、日本カミーノ・デ・サンティアゴ友の会、クラクフやワルッシャワにすむ知人、インターネット・・シェンゲン協定のこと、

得られなかった情報・・・アウトドア関係(ガスバーナーの燃料互換性など)、camino道(modern routeとSt.Jamesの関係など)

旅費

航空運賃は別として概略1日1万円と計算
88日間・・ total88万円

宿泊

大都市・・Hotel/Hostel
田舎・・・・テント

旅程

32kmカウントで何泊か?
Excel
シートの作成。
(計画段階・・テント50泊、
Hotel
など38泊)
結果として・・テント39泊、
Hotel
39泊、
ゲストルームなど10泊)

事前トレーニング

・丹沢山系を利用し、1泊2日を2回トライ
(靴・・ASOLO、リュック、水などシミュレーションを兼ねる、作成した地図などもタブレットで持参)
・普段は5-10kmのジョギングを2日に一回
20-30kmの長距離runを1回/Wの頻度で。
・日本カミーノ・デ・サンティアゴ友の会主催の「ワン・デーカミノ」に参加

実際の行程

朝食と出発準備(4:00-5:00)
8km
6:00-8:00 ,8:00-9:00(休憩+軽食)
8km
9:00-11:00,11-00-12:00(休憩+ 昼食)
8km
12:00-14:00,14:00-15:00(休憩+軽食)
8km
15:00-17:00 到着 計32km
夕食と就寝
テント設営の場合は最後のクルーを2時間ほど遅らせ19:00以降の到着とした。

 

歩行speed・・

(2時間歩行+30-60分の休憩)x4

左右どちらかの足で、65歩を100mとしてこれを10回繰り返して1kmとする。荷物に応じ・・
15
/1km12/1kmspeed

スーパー

ポーランド・・ミニスーパー(sklep)が随所にあり助かった。
ドイツ以西・・大型スーパーが町の入口にあり買える時に買っておくというスタンスで食料には窮乏しなかった。日曜日でもパン屋は開いていた。

しかし結果として5KGほど痩せた。

2.その1の旅の実際

・車と違い実に多くの出合いがあった。

・都市を抜けていく、都市に入っていく・・この繰り返しであるが期待がまず膨らんだ。

・犬はよく吠えた。後鳴きが一番怖かった。

・人々は親切であった。

・風景は平坦であった。川は濁っていた。

・海岸べりは寒かった。

・鳥の歌声は素敵であった。

 

CAMINO迂回ルートは色々)について得られた情報
1.ポーランド・・jakuba drogamodern route
2.
ドイツ・・jakobs weg

3.フランス・・GR654など

Rocroi(ロクロア)-Vézelay(ヴェズレ)

http://pilgrim.peterrobins.co.uk/routes/mapping.html

REIMS(ランス)-Paris(Tour St Jacques)

4.トレッキングルートやcamino道が随所にあった。

ポーランドcaminohttp://www.camino.net.pl/

ドイツcamino Jakobsweg von Minden bis Soest・・
JAKOBSWEG Minden soest
http://www.outdooractive.com/de/pilgerwege/5141/
など。


 

 

出発1週間前

2015.5.5 台車を曳いて歩くことにまだ迷いがあった。台車では歩く道が制限されてしまう。ぬかるみは、ダメである。
 現在の案・・ザック1(PAINE(Mt Trekker) 50-60 or Millet 35L))・・Max9kg(衣類とrunning靴、マットのみ)(*は現地調達。)

      ザック2(Gregory Baltoro 75)軽量折りたたみ台車・・Max17kg(衣類以外のすべて・・什器、洗剤、スケッチ道具、寝袋、テント、バーナー、燃料(*)、水(*)、食料(*)
      ポシェット(G.T. Hawkins)・・Max2kg タブレット、指差し会話bookや地図やノートなど小回りのもの。

ザック1を担ぎ、軽量折りたたみ台車にザック2を乗せそれを曳く。台車が壊れた場合は現地調達。

ぬかるみでは、逆にザック2を担ぎ、ザック1を身体の前に付け台車を手持ちする。

真夏方向に向かうので、最後はザック2のみとして、ザック1と台車はパリへ郵送。

 

旅姿 シミュレーション

150506_05_tabisugata.jpg

ザック1にはマットが括り付けてある。

ザック2にはソーラーパネルを付けている。

天気のときはこれに蓄電をし、タブレットなどの充電に使う。

 

台車・・・EMINENT エミネント サイレントキャリーカート 耐荷重40kg サイズ : (使用時)960×350×300mm、(収納時)600×310×100mm  車輪・・ポリウレタン樹脂
マット・・ThermarestZ lite Sol290g。これは疲れたとき道端に敷いて寝るためのもので、ジャバラ式。さっと敷けてさっと折畳める。カンカン照りのときなど日陰で涼をとるために購入。
テント・・モンベル U.L.ドームシェルター 1型 757g。(自立式ドーム型ツェルト)気密性に優れている。
ソーラーパネル・・PowerFilm Solor
電子機器・・大容量リチウムバッテリー(cheero 12000mAh 2端子(1A2.1A)同時充電)、タブレット(Android ASUS)、電源プラグ変換アダプター(コンサイス ミニプラ8in1 クリア)、スマホ(Galaxy 予備機として)

この出で立ちで近所を歩いてみた。工夫点など盛り込み、羽田デビューは511日。
ご覧になりたい方は、羽田国際線出発ロビーに集合。pm5:00からうろうろしています。
出発は512日午前0:55 ルフトハンザ機。

 

出発2日前

2015.5.10旅装束・最終ひとつ前・・ほぼ決まりであったが・・

ザック1(Millet 35L))・・Max6kg(衣類とrunning靴、スケッチブック1冊)
ザック2(PAINE(Mt Trekker) 50-60)+軽量折りたたみ台車・・11kg+(現地調達分(*))(衣類以外のすべて・・スケッチブック3冊、什器、スケッチ道具、寝袋、テント、バーナー、マット、燃料(*)、水(*)、食料(*)
ポシェット(G.T. Hawkins)・・Max2kg タブレット、指差し会話bookや地図やノートなど小回りのもの。

出発1日前

2015.5.11 旅装束・最終形

実は上記で殆ど決まりであったが、家の近くを2kmほど台車のキャスターを転がしながら歩いてみた。車輪幅が25cmしかなかったことが災いして、台車がひっくり返るのだ。歩道に付いた斜めの坂や、段差があるものは、左右の車輪に高低差が出るため回転力が働き、キャスターがひっくり返るのである。なんと10回ほど転んでしまいリュックが道路に転がり落ち擦れて持たない。こんなことでは2500km12500回もこけることになる。

この軽量台車は空港などの平らな床面をそっと転がすためにあるようで、悪路には不向きであることがわかった。大失敗である。逆に人間の2足歩行はどんな悪路にも耐えられ、階段やぬかるみや山道をいとわない。人間はなんとすばらしい移動道具を持っていることか。一方台車に付いた車輪はその全ての行程を舐めるように回っていくので、側溝の穴や、網状の下水蓋で「足を取られ」重たくなる。なんと融通の利かない道具だろう。台車を止めるとなると旅の装束が大幅に変更となる。急遽荷物を減らし、前後2つとした。

最終形・・ザック1(Osplay 30L)・・Max3kg(スケッチ道具+ポシェットに入れようとしてしていたもの全て)

     ザック2((PAINE(Mt Trekker) 50-60L)・・10.5kg+α(衣類や、寝袋、テント、マット、消臭剤、スコップ(!)、水(*)、食料(*)、地図)

 

ザック1は完全に担いでしまうと暑くなるので、半分を外し風通しを良くするなど工夫。

 


 

 

旅装束・最終形

150511_04_zaggu_rev1.jpg
前がザック1、後ろがザック2。

みよこの軽快感を。走り回ることもできる。

行きついた先がこれだったとは!

 

台車騒動は何だったのか! Street Viewで見るとぞっとする。悪路が続く道。


ザック2に入れたスタッフバッグ 

10L・・フリース、山用ズボン(防寒)、Long-Tシャツ、手袋、靴下など

10L・・空港服(街歩き)1set(ズボン、ジャケット(240g)、半袖Tシャツ、靴下など)

10L・・longタイツ+長袖Tシャツ+半そでTシャツなど

6L 2個・・歩行用(longタイツ+長袖Tシャツ+半そでTシャツ、半ズボン、靴下など)2set。まぁ着たきり雀である。毎日洗い毎日着る。・・・上記1setはいづれかを着衣。

 

この最終形は、自炊道具を一切持たないとした思い切った案である。食べ物は「乾物、果物、ソーセージ、缶詰、ジュース、パン」というcamino型のスタイル。Hostelなど自炊道具があるところはそれを利用する。

水は川の水を沸騰させて飲もうと思っていたが、極力民家から貰うことにする。コミュニケーションのついでに泊めてもらったりして。

 

旅の形態・・・朝7:00-8:00出発。15km-17kmの箇所でレストランか川べり、公園で大休止。午後は13:00-17:00着。 或いは昼寝の後、15:00-19:00着。レストランかパブで食事。

 

出発は今日(2015.5.12)の深夜(5/13)午前0:55 ルフトハンザ機。

 

 

 

2015.5.12 馬のはなむけー壮行会

羽田空港国際線ターミナル5階展望ホールに8人が集合。これから全員出発かというぐらいに皆気合が入っている。荷物をチェックしに来たのである。走行会という名の下に。camino道を中心として2013年にヨーロッパを3ヶ月間も歩いた人を中心として「Buen Camino」と言うグループが出来ている。久々の人もいて4時間くら談笑。リュックを担いだり中身のスタッフバッグを見たりと旅装のチェックに忙しい。来週ご夫婦でスペインに立つ人、ル・ピュイからモアサックまで歩く人、はたまたモンゴルの草原をキャンプする人など旅好きが集まったからにはそれぞれ情報交換も余念がない。小生はほとんど着た切り雀であるが、パリに辿り着いていればパリモードにイメチェンも期待できる・・・。再会を約束